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岡山大学大学院・津田教授のインタビュー記事(日経新聞)
【岡山大学大学院・津田教授のインタビュー記事(日経新聞)】
日本経済新聞(電子版6/23)に、津田敏秀さんのインタビュー記事が掲載されました。津田さんは、岡山大学大学院環境学研究科教授で、放射能健診100万人署名の呼びかけ人です。
【統計軽視の医学界 福島発がんリスクを見誤るな】
疫学専門家に聞く 編集委員 滝順一 (日本経済新聞 電子版 2014/6/23)
岡山大学の津田敏秀教授は、多数の人間を観察対象にして病気の原因などを調べる疫学の立場から、低線量放射線被曝(ひばく)の問題を提起する。年間被曝量が100ミリシーベルト以下であっても、放射線の影響ははっきりと表れると主張。福島県の検診で見つかり始めた小児甲状腺がんの増加に警鐘を鳴らしている。
■チェルノブイリ事故直後でも10代の子どもに発症がみられた
――低線量の放射線被曝のリスクに関し、「しきい値なし直線(LNT)モデル」で防護を考えるのが一般的だ。つまり放射線量がどんなにわずかであっても発がんリスクはある。ただ小さいので喫煙や生活習慣など他のリスク要因と比べて見分けがつかないとされる。
「それは誤った言い方だ。放射線の影響をすべてのがん、すべての年齢層の人間でみるからで、放射線の影響が出やすい若年層に対象を絞ったり、がんの種類別にみたりすれば、100ミリシーベルト以下でも影響が出るとした科学論文は海外にいくつもある。小児の甲状腺がんのように、放射線以外の理由でかかることが極めてまれな病気では影響はよりはっきりしている。」
「例えばエックス線CT(コンピューター断層撮影装置)で5ミリ~50ミリシーベルトのエックス線を浴びた人は、浴びていない人に比べて発がんリスクが高いことがわかっている。国際がん研究機関(IARC、世界保健機関の関連組織)が約100万人を対象にする大規模調査をしている。低線量の影響は見分けられないというのは誤った知識だ。」
――福島県で、原子力発電所事故のとき18歳以下だったすべての子どもを対象に甲状腺検診が実施され、がんの子が見つかっている。これを多くの専門家は、超音波診断装置による精密検査のため触診では見つからないような小さなしこり(結節)まで見つける「スクリーニング効果」の結果だと説明している。
「スクリーニング効果の結果だとする証拠はあるのだろうか。国立がん研究センターに登録された甲状腺がんの年齢別の発生データや、福島県内の地域別の被曝量などを相互に比べて解析すると、原発から離れた中通り(福島県中部)でも統計的に有意な数の患者が見つかっている。放射性ヨウ素が事故直後に流れ込んだことと、放射性セシウムによる外部被曝が今も続くことが要因とみられる。」
「福島で甲状腺がんが見つかった子どもの平均年齢が15歳前後で、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故後の発症パターンと違うとも説明される。だがチェルノブイリでも事故直後は10代の子どもに発症がみられたという事実を見落としている。検診を担当する医師らに統計学の知識が不足している。」
――製薬大手ノバルティスファーマの高血圧治療薬の臨床試験をめぐる事件では、大学医学部が製薬会社の社員に統計解析を任せていたことが明るみに出た。日本の医学界は統計解析に弱いのか。
「日本に近代医学が導入された19世紀後半は、欧州において実験医学が花盛りだった。フランスの医師クロード・ベルナールが代表的な存在だが、実験から病気が起きる因果関係を突き止められるとした。欧米では20世紀半ば以降、多数の人間を観察して仮説をたて病気にかかる要因を突き止めていく疫学の考え方が台頭し、医学を実験室から社会に戻したとされる。疫学において大事なのは、病気とその原因の間に一対一で対応する因果関係はないということだ。しかし日本の医学界は実験医学こそが医学の本流だと今でも信じている人が多い。」
■病気とその原因を1本の線で結ぶことはできない
――生活習慣病では一対一で対応する特定の病因はないかもしれないが、感染症についての「コッホの原則」はどうか。ある病気から特定の微生物が見つかり、これを動物に感染させると発症、その患部から問題の微生物が見つかる。その場合、病気はその微生物が原因で起きたとみるのが普通だ。
「感染症であっても、自然現象は一般に一対一対で対応する因果関係を言明できない。ひどい下痢などの症状を呈する病気をコレラと呼び、その患者からみつかる微生物をコレラ菌と呼んでいるにすぎない。コレラ菌を持っていてもコレラのような症状を示さず、コレラのような症状の患者にコレラ菌が見つからないこともある。病気とその原因を1本の線で結ぶことはできない。」
――疫学に対する見方として、集団を相手にするので個別の因果関係はわからないとの限界が指摘される。
「調べれば、個別の事象の因果関係がわかるとするのは誤解だ。すべての科学は仮説に基づき多数のデータを集めて解析、その結果をみて仮説を修正し、再びデータを集める。この繰り返しだ。因果関係を明らかにするのが科学の仕事なら、それはデータによるしかない。仮説(概念)と観察データ(現実)の間をつないで、真実に迫る上で不可欠なのが、統計学だ。だから統計学は科学の文法だといわれる。」
「日本の行政はこうした科学的なものの見方ができず、例えば水俣病においても特定の症状と水銀汚染を対応づけようとしたのが、過ちだった。同じことを福島で繰り返してはいけない。」
――福島ではどうすればいい。
「福島県内に限らず放射能で汚染されたと考えられる地域で、小児甲状腺がんの過剰発生がないか監視することだ。また放射線の影響を受けやすい妊婦や小さな子どもが、なるべく汚染された地域に住まないでいいような態勢をつくることだ。」
■取材を終えて
津田さんは日本の医師のあり方に対し、辛辣な分類を提唱している。自らの臨床経験だけに頼り海外論文などに疎い「直観派」、生物学的な実験で病気のメカニズムがわかると考える「メカニズム派」、疫学的なデータをもとに議論する「数量派」の3つがある。日本では直観派とメカニズム派が主流を占め数量派が極めて少数であることが、水俣など公害病や放射線問題での混乱の根っこにあるとする。
昨年来、相次いで明るみに出ている臨床研究をめぐる不正事件をみると、確かに日本の医学界は統計解析を軽視してきたように思える。
福島原発事故に起因する放射線影響は、当初心配されたほど深刻ではないとの指摘が多い。疫学はこうした楽観論が見落としがちな側面を浮かび上がらせる。福島県などは、同県以外における子どもの甲状腺検査との比較やがんの大きさなどを根拠に、これまでに見つかった甲状腺がんを事故の放射線の影響だとはみていない。これに対しても疫学からは反論がある。ここは医学者間でしっかり議論をしてもらいたい。
また、疫学だけでは特定の個人の発症原因が事故による放射線なのかどうかを明らかにはできない。津田さんによれば、発症と病因を一対一対応で証明することは原理的にできないことになる。この指摘は福島事故のこれからを考えるうえで非常に重要に思える。
【以上】
【感想】
「美味しんぼ」事件で、福島県も環境省も、「被ばく線量は低いから、健康被害が出るはずがない」と言う論方で、健康被害の存在そのものを消し去ろうとしました。
そして、反原発運動に関わっていると思われる学者・医師の中にも、この論理に同調する者が現れました。
環境省と福島県は確信犯的に健康被害の訴えをつぶそうとします。その際の理屈が、『低線量で鼻血が出るはずがない。』 すなわちメカニズム・因果関係を説明できない、と言うことです。
津田教授が指摘し、この記事の記者が同調する点は、メカニズム・因果関係が判らなくても、全体像を見れば明らかに健康に異常が見られる、という点です。それを明らかにするのが統計学ですが、確かに日本の医師や学者は統計学が不得意なようです。 (企業では、統計学が「品質管理」の名前で組織的に取り入れられており、医師や学者よりも詳しいとが多いでしょう。)
彼らは、統計学よりもICRPの理論の方に親近感を持つのです。
なぜ? 私にはよくわかりませんが、おそらく「ICRP理論」を学生時代から徹底して頭にたたき込まれたからだと思います。 「量は質に転化する」のテーゼ通りです。大学以来、大量に教え込まれたICRPの理屈は、多くの医師の中で、真理に転化したのでしょう。
大事なのはメカニズムではなくて、「健康被害がある」という事実です。 これを証明するのが統計学です。
美味しんぼ事件では、環境省も福島県も、医師も学者も、健康被害の事実を否定できませんでした。彼らは統計学を使わなかった(使わえかった?)からです。
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